vol.56 タラが巻き起こした戦争

 
  朝夕の冷え込みに、秋の深まりを感じます。
 スーパーの店頭には、既に土鍋やガスボンベが並んでいました。
 少し肌寒さを感じる夜は、鍋料理が恋しくなります。
 鍋といえば一番手っ取り早いのが、湯豆腐、タラちりではないで
 しょうか。タラと木綿豆腐があればすぐ出来るのですから・・・
 
  タラは、身が雪のように白いから「鱈」と名付けられた魚。
 だから、やっぱり旬は冬です。
 しかし今は輸入も多く、冷凍ものはいつでも出回っています。
 淡白な味ながら、ほろほろっとくだける口当たりが好ましい魚です。
 煮付けや、蒸し物、フライなどにして賞味します。

  タラといえばマダラを指しますが、そのほかにも、たらこや
 冷凍すり身の原料として有名なスケトウダラがあります。
 よく見かける銀ダラは、タラの仲間ではなく、ホッケに近い魚です。

  マダラは、体長1m、体重20kgに及ぶものもいます。
 下顎の先に1本のひげがあるのが特徴で、体の大きいわりに
 おどけた顔に見えます。
 朝鮮半島周辺から、北米のカリフォルニアまでの大陸棚や、それに
 続く斜面域に広く分布します。
 この魚、身は高蛋白、低脂肪、ミネラル分をバランスよく含んでいるので、
 ダイエットや生活習慣病にも向いているのです。

  実は、タラは世界で一番多く食べられている魚なんです。
 タラちりや湯豆腐などにして、日本の冬にはお馴染みの魚ですが、
 タラは、親より子の方が珍重される魚。
 たらこは、スケトウダラの卵巣。
 真子は、マダラの卵巣です。
 白子はタチ・キクなどとも呼ばれる精巣のことです。
 白子は、高級料亭で吸い物、酢の物、鍋ものの具などに使われる
 高価な食材になります。

  一方外国では、フライやソテーにしたものに、クリーミーなソースを
 かけて食べるのが好まれています。
 この魚の淡白さが、油やこってりしたソースの味付けで、西欧人好みの
 味になるのでしょうね。
 例えば、タラのブレゼ(油で炒めて色ずけしてしてから、スープで蒸し煮
 したもの)
 すり身にしてムースに。
 白ワイン蒸し、ムニエル・・・など、さまざまな料理に変身します。
 中でも、英国のフィッシュ&チップス(fish and chips)は代表的な食べ方
 です。英国の大衆食といわれるこの料理は、白身魚のフライにポテト
 チップスを添えたもので、白身魚としては殆どタラが使われています。

 このタラの漁業権について、アイスランドとイギリスとの間で1958年
 から1976年にかけて、激しい紛争が起こりました。
 アイスランドが領域の拡大を宣言したことに、イギリスが猛反発したのです。
 イギリスはイギリス海軍の軍艦を出動させ、アイスランドの沿岸警備隊と
 砲撃しあうことになり、戦争は長引きました。
 もともとアイスランドは、資源の乏しい国で、長いデンマークの支配も重なって
 ヨーロッパの最貧国でありました。
 1944年にデンマークから独立後のデンマークにとって、近海のタラ漁業は
 一大産業であり、これを制限されることは死活問題であったのです。

 その後、冷戦のcold warをもじってcod(タラ) war と呼ばれたため、
 日本では「タラ戦争」といわれるようになりました。
  最終的には、イギリスはアイスランドに対して大幅な妥協案を提示し、
 タラ戦争は、アイスランドの勝利で終結しました。
 これはアイスランドが、ワシントンDCとモスクワを結ぶ最短経路の真下にある
 最重要拠点であったこと、
 又、イギリスを含む西側諸国のソビエト連邦に対する防衛力だった
 ケフラヴィークのNATO基地閉鎖をアイスランド側がほのめかしたことや、
 200海里の排他的経済水域が、世界的な慣習になりつつあったことなどが
 原因と伝えられています。

  タラは、平凡な魚ながら、大きな争いを巻き起こし、
 後世の歴史に名を残したのです。







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